特許の国際出願制度について

 歳末ご多端の折、ますますご清祥でご活躍のことと存じますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。どの業界でも同様かとは思いますが、年末・年度末が近づくにつれて、官公庁が主催するセミナーも多くなってきます。以前、このコーナーにて、商標の国際出願制度について触れさせて頂きましたので、今回は、弊所スタッフが参加した特許庁主催の特許の国際出願制度に関するセミナーの報告も兼ねて、特許の国際出願制度について、簡単にお話しさせて頂きます。

各国における特許制度について

 「国際特許」という言葉を耳にしたことがある人も多いと思いますが、特許権は国毎に成立するものであり、世界中で有効な「国際特許権」というものは存在しません。特許権を認めるか否かは、政策的な観点からの影響が大きいため、国際的な統一ルールとすることは難しいようです。定期的に「国際特許権」について話題はあがりますが、今のところ、現実になりそうな雰囲気はありません。例えば、日本では人体の治療方法については特許権が認められませんが、米国では特許権が認められます。このように、特許の対象をどのようなものにするかというレベルでも、国際的な統一ルールは定められておりません。
 このため、複数の国で特許権を取得するためには、それぞれの国毎に決まった書式・言語で、国毎に手続きを行い、審査を受ける必要があります。しかしながら、特許権を取得したい国が増えれば増えるほど、出願人にとっては負担が大きくなります。まして、それぞれの国の言葉で、それぞれの国の法律に従って、全て同じ日に出願することは、不可能に近いでしょう。そこで、手続的な部分だけでも共通化するために定められたのが「国際出願制度」です。この制度では、特許権を取得する際に必要な、手続面を共通化することにより、各国で特許権を取得する際の労力を低減しました。ただし、誤解されることが多いですが、共通化したのは、「出願手続の一部」にすぎません。特許権を認めるか否かの最終審査はそれぞれの国で判断されますし、例えば、日本国の特許権は日本国以外の国では効力を有しません。

国際出願制度の利用状況

 この国際出願制度は、特許協力条約(PCT)に基づいていますので、この制度を利用した出願をPCT出願とも呼びます。この制度により、国際出願手続を行うことで全てのPCT締約国(2017年9月1日現在、152か国)に同時に出願したことと同じ効果を得ることができます。つまり、公用語(英語、日本語、フランス語等)の言語による一回の手続きで、152か国全ての国に同時に手続することが可能となり、各国言語に翻訳する手間だけを考えても、出願人の負担は大きく減ります。
 この国際出願制度の利用者は年々増え続けており、2015年には、日本人(日本企業)による外国出願の約半数が国際出願経由です。2016年の日本人(日本企業)による国際出願件数は45,239件(前年比2.7%増)であり、件数ではアメリカに次いで世界第2位です。国際出願の利用方法に関する統計によると、日本人(日本企業)は、1つの国際出願につき平均2.8か国で国毎の審査を進めており、その国は、米国(26%)、中国(18%)、日本(18%)、欧州(13%)、韓国(9%)のいわゆる五大特許庁がある国が選ばれています。

国際出願制度の活用状況

 さて、この国際出願制度を利用する場合、自国(日本人の場合は日本国)で特許出願を行った後に優先権制度を利用して国際出願を行う方法と、(自国に出願することなく)国際出願を行う方法の2種類の方法があります。
 優先権制度を利用して国際出願を行う場合、(条件付きではありますが)内容を一部追加・変更ができたり、国際出願を行うか否か検討する時間的猶予(1年間)があったりするメリットがある一方、自国への出願と国際出願の2回手続が必要なため、(自国に出願することなく)国際出願を行う場合と比べると、費用が嵩むというデメリットがあります。
 昨年(2016年)の日本の出願人による(自国に出願することなく行われた)国際出願は、国際出願全体のうち約18%程度でした。このことから考えると、まずは国内市場での保護を求める傾向が強く、始めから、世界展開を考えて特許戦略を立てている企業は少ないのかもしれません。一方で、工場(研究所)の国外移転や近年のグローバル化に伴い、国にとらわれないビジネス戦略を考える企業も増えてきておりますので、今後、この割合が増えていくのではないかと考えております。
 このあたりは、手続が煩雑なだけでなく、状況に応じてメリット・デメリットが複雑に絡み合ってきますので、国際出願の利用を検討する場合には、慎重にご検討下さい。

特許の国際出願制度に関する最新動向

 国際出願を行った場合、国際調査機関が国際出願の新規性や進歩性等を調査し、その結果を国際調査報告として出願人に報告します。このため、出願人や各国の特許庁は、この国際調査報告の結果を、国際出願が新規性や進歩性を有するか否かの判断材料とすることができます。この国際調査は、現在は単独の国際調査機関が行っておりますが、2018年5月1日からは、主担当の調査機関が副担当の調査機関と協働して新規性や進歩性等の調査を行い、1つの国際調査報告を作成して出願人に提供するPCT協働調査の試行プログラムが開始されます。試行プログラムですので全ての国際出願が対象になる訳ではありませんが、この制度を利用することで、出願人はより高品質な国際調査報告を得ることができ、より高い予見可能性を持って各国への権利化を目指すことができるようになると考えられます。当初は、五大特許庁(日米欧中韓)に出願された英語の出願であって、出願人が協働調査の適用を申請した案件から、各特許庁が最低100件受付をするとのことです。
 また、2017年7月1日に発効した条約の規則改正によって、国際出願の国内段階移行情報がWIPO国際事務局に送付されることが義務化されました。これまでもWIPOのデータベース上で国際出願が国内段階移行された国を閲覧することができましたが、一部の国のみ対象かつ参考情報扱いであったため、正確な情報を得るには各国特許庁のデータベース等にアクセスする必要がありました。今回の改正により、各国特許庁のデータベース等にアクセスすることなく、国際出願が、どの国で権利化されたか(されようとしているか)が判断できるようになるため、便利になりそうです。

 このように、国際出願制度は、有効な使い方が多いですが、手続面で複雑な点が多く、また、国際事務局には英語で書かれたルールに従って英語で対応しなければならないという一面もあります。また、今回は一部のみ紹介させて頂きましたが、細かなルール改正は毎年のように行われています。
 このため、国際出願制度を利用される際には、必ず最新の情報にアクセスして頂くか、専門家にご相談下さい。