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デザインのもたらす価値

 朝夕はめっきり涼しくなり、寒暖の大きくなりつつありますが、いかがお過ごしでしょうか。私の周りでは、いつの間にか蝉の鳴き声が聞こえなくなったかと思いきや、秋の虫たちの合唱が始まり、季節の移り変わりの早さを感じております。さて、先日、一般社団法人デザインアカデミア中部様主催の定期公開カンファレンスのパネルディスカッションにパネリストとしてご招待頂きましたので、今日はその報告をさせて頂きます。

日本の陶器デザイン史

 まず、定期公開カンファレンスの前半の部では、栄木正敏先生により、「日本の陶磁器デザイン史」というタイトルで基調講演が行われました。美術や芸術と言うと、個人の才能の影響が強いと考えておりましたので、陶磁器という切り口におけるデザインの流れを体系的に聞くことができたのは、非常に有意義でした。技術が累積的に進歩するように、(個人の影響が大きいながらも)デザインにも累積性があるということ、また、陶磁器分野においては、名古屋近郊の影響が大きいことには、驚かされました。機会をみつけて、少し陶磁器にも目を向けていきたいと考えております。

デザインのもたらす価値とは

 公開カンファレンスの後半の部は、パネルディスカッションです。まずは、参加したパネリストの属性から紹介させていただきます。パネリストは、基調講演を頂きました栄木先生に加え、デザイナー(工業デザイナー、CMFデザイナー)が各1名、知財価値評価センターの元センター長を務められた弁理士に、会計士兼不動産鑑定士という「鑑定」のプロの先生、そして、弁理士の私という6名です。それぞれ異なる立場の人が、異なる視点から発言をされたため、非常に興味深いものでした。特に、多くのディスカッションでは、基本的には立場の近い方々が議論することが多いため、同じテーマに対して、様々な視点で議論することは、お互いの視野を広げるという意味でも、有益かと考えます。今回は、時間が1時間弱と短いものであったため、お互いに深い議論ができなかった点が、私としては残念でした。

 さて、デザインのもたらす価値に関して、デザインには、1)機能的な問題の解決、2)進化の可視化、3)独自性の表現(アイデンティティーの可視化)、という大きな3つの特徴があるため、これらの特徴がそれぞれ価値を生み出すのではないかという意見が工業デザイナーの先生よりなされました。「機能美」という言葉が身近なせいか、1)の観点については普段から意識をしておりましたが、2)及び3)の観点については普段あまり意識していない観点でしたので、今後の業務に役立てて行きたいと考えています。

 また、CMFデザイナーの先生からも、「進化の可視化」については似たような意見が出され、実際の製品について、モデルチェンジの順番に並べたスライドを用いてご説明いただきました。個々の製品の一つ一つを見ているだけでは分かりにくいですが、複数の歴代商品が並ぶと、素人ながらもデザインの独自性(アイデンティティー)や進化の流れのようなものが感じられたような気がします。ご承知の通り、意匠法では、同一の意匠(デザイン)だけでなく、類似する意匠についても保護が認められるため、このような進化の流れを踏まえた形で意匠登録の出願戦略を考えると、現在のデザインだけでなく、進化の流れをふまえた未来のデザインについても、何らかの保護に繋げられればと考えています。

 次に、知財価値評価センターの元センター長の先生からは、「デザインの寄与度」というキーワードに関する問題提起がありました。「寄与度」とは、ある製品等に対して技術やデザインがどの程度貢献しているかを表す指標で、裁判等の場面において特許権や意匠権の価値を判断する指標にしばしば用いられます。例えば、医薬品の主成分が特許発明であるとすると、その医薬品の価値に対する特許権の寄与度は高くなりますし、携帯電話のように、多くの特許発明の組み合わせによって製品が作られている場合には、一つの特許発明の寄与度は低くなります。もちろん、商品の価値は技術やデザインだけでなく、原価や物流コスト、企業の営業努力や宣伝広告など様々な要素で決まるため、これらの寄与度も考慮する必要があります。このように、評価するために考慮すべき事情が多すぎることが「寄与度の評価」を難しくしている原因の一つではあり、現実的に「正当な評価」を行うことは、非常に困難であるかと考えます。このため、実務上は、(少なくとも私の目には)裁判官がどんぶり勘定で決めているとしか思えない状況が続いております。

 この問題提起に対して、公認会計士の先生の立場からは、知的財産の性質上、既存の評価方法から評価することは難しいという意見が出ました。従来の評価は、大きく分けて、インカム・アプローチやコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ等がありますが、知的財産の持つ性質上、コスト・アプローチは当てはまりにくく、インカム・アプローチやマーケット・アプローチでの予測可能性が低いためです。現時点では、事業部単位等、知財を含む事業部門で評価を行っており、その評価の中で、知財の影響度は必ずしも大きくないとのことでした。また、「デザインの価値」について企業会計の観点から考えると、多くの企業ではデザイン料(デザインを生み出す費用)については、固定費(例えば、人件費等)として計上されていることが多く、個々のデザインの価値について評価するという体制になっていないような印象があるとのことでした。

 また、私の方からは、「デザインの価値」を経営資産と考えた場合、デザインそのものの持つ本質的な価値に加え、意匠権等によって他社が模倣できない状態を保つことで、ビジネスの側面からデザインの価値を高めることができると考えると、デザインが意匠権でどのような形で保護されているかといった権利の状況・権利の存続期間の長さについても、合わせて評価することを提案させて頂きました。デザインを創造することについては、多くの弁理士は得意でないかと考えますが、弁理士は権利化については一日の長がありますので、弁理士が介在することによって、デザインのビジネス上の価値を高めることができるのではないかと考えています。

 時間的な制限のあるパネルディスカッションでは、残念ながら方向性を示すレベルにも至りませんでしたが、様々な立場の人間がそれぞれの視点から同じ基準について考えてみることで、多くの「気づき」が得られたように思います。特に、最近は「デザイン」という言葉の中に、ある一つの製品の形状や模様等だけでなく、複数の製品群からなる共通のイメージや、過去の既存製品との繋がり、コーポレートカラー(コーポレートイメージ)等を表すケースも増えてきているように感じますので、それらの価値をより高めるべく、意匠権に限らず、商標権や著作権での保護を視野に入れる等、多面的な観点から考えていきたいと考えています。

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